東京高等裁判所 昭和53年(く)368号 決定
被告人 川島昇
〔抄 録〕
記録によると、原裁判所が、申立人の前記制限住居変更許可申請に対し、昭和五三年七月三一日、右申請書の余白部分に「右は許可しない」として裁判長ら三名の裁判官が各認印して処理していることが認められる。
所論は、保釈許可決定後の事情変更を理由として制限住居の変更を希望する場合には、その旨の裁判を求める請求権のあることを前提とし、原裁判所の右の処理をもって、右請求権に対する却下決定の裁判であると解し、従って、右却下決定に対する不服申立として、本件抗告により、その取消し等を求めたものであることは、申立書自体に徴し明らかなところである。
しかしながら、保釈許可決定後における事情変更を理由として制限住居の変更を請求しうるとする点は、現行法規上これを認めた規定がない。ただ、一般に、右のような制限住居等のいわゆる任意的条件の変更(認可)については、当該被告事件の係属する裁判所の合理的裁量により可能であると解されており、当裁判所も右見解に異論はなく、実務も同様の見地から処理されているので、右のような請求権を認めた規定がないからといって、裁判所が職権により変更することに格別問題はないといってよい。本件における申立人も、右の取扱いに基づき原裁判所に制限住居変更の申立をしたものと認められる。
以上の観点から考えると、申立人の右変更を求める申立は、訴訟法上の請求権の行使とは認められず、裁判所の職権の発動を促すにすぎないものと解するのが相当である。
ところで、原裁判所の意見書中には「制限住居変更を許可しなかった当裁判所の措置に対し、抗告を申し立てうるかについては疑義が存するものと思料する。」との記載があり、右不許可の「措置」なる文言等に徴すると、原裁判所は、申立人の申立に対し、裁判すなわち却下決定をしたものではなく、職権の発動をしないことを念のため記録上に明らかにする趣旨で、前記表示をしたものと解せられる。
従って、原裁判所の右措置は刑訴法四二〇条二項にいう勾留に関する決定には該当しないから、これに対する抗告は許されない。また、前記のように、制限住居の変更等については、簡易迅速な方法が存し、かつ、相当の理由を具備する場合には、時期、回数に制約のないこと及び実務の許否の現状などにかんがみれば、理論上はもとより、実際上も抗告が許されないからといって被告人の権利保護に欠けることはないものと考えられる。
以上の理由により、本件抗告の申立は不適法というべきである。
(草野 高山 田尾)